蟲毒


蟲毒・・・中国に古くから伝わる呪法。
毒虫、毒蛇、サソリなどを甕に密封して土に埋め、飢えた虫たちに喰い合いをさせる。
喰われるものの毒のみならず、痛み、苦しみ、憎しみ、恐怖、怨みなどが喰う者に取り込まれ、
最後に残った一匹には濃縮された負のパワーが宿るという。
では、毒の代わりに強烈な我侭と、食欲と、
ナルシシズムを持ったバケモノを使って蟲毒を行なったとしたら・・・。


ある晴れた日曜の朝、俺は箱に閉じ込めた糞苺どもを車に載せ、
山道をドライブしていた。 目的地は山の中腹にある、最近廃校した小学校。
着いてみると、校門は開け放ったまま。
校庭は、もともと養分の少ない土に覆われ、廃校してからそれ程間が経っていないため、
全体的に草がちょろちょろと生えているが、
まだ荒れ野のようにはなっていない。端の方は少々生い茂っているが、
この程度なら問題にはならなそうだ。
さらに4面をフェンスで囲まれ、校舎側の一部と校門だけがぽっかりと口を開けている。
つまり、校門を閉めて校舎側に俺が張れば、この校庭は完全に囲まれる、というわけだ。
実に完璧である。

俺は箱を車から乱暴に地面に投げ落とすと、ロープを引いて中から糞苺どもを引きずり出した。

糞苺どもは両手首をぴったりと固定され、腕と体とが作る三角形の中に
ロープを通されているので、 捕縄に縛められた凶悪犯よろしく、
俺の引くようにしか歩くことを許されない。
最初はこうまでしても喚き散らして暴れ回っていたのだが、
どいつか一匹が俺に飛びかかろうとすると、
他の糞苺どもと歩調が合わず、みんなまとめてずっこけ、
怒った別の一匹が立ち上がろうとしては綱に引かれてまた転び・・・と馬鹿なことばかりして、
そのうちに今のように大人しくなった。実に協調性の無い奴らだ。
が、口だけは達者なままなので
「ハナセバカナノー!」「ヒナ、オナカヘッタノ!ウニュー!ウニュー!」「ヒナカワイーノーー!」「アンマー!ブオー!」
と喧しいことこの上ない。

そもそもどうしてこんな有様になったのか覚えていないのだろうか。


遡ること一週間前、俺は5匹の糞苺を捕まえた。最初はバケツに沈めて殺そうかとも思ったが、
仮にも言葉を話し二足歩行をする知的生物である。かすかな慈悲の心が俺の手を留めた。
飼ってみよう、という積極的な思いは無かったが、
ひとまず生かしておいて様子をみる気になったのだった。
しかし、3日後にはその判断があまりに大きな誤りだったことに、俺は気付かされた。
ただでさえ我侭で喧しく、好き嫌いが激しい糞苺にイライラしていたところへ、事件は起こった。

その日、飼育かごから糞苺どもが脱走したのだが、
まず一匹がパソコンの液晶モニターに油性マジックで落書き。
2匹目はふざけいていてガラスサッシを叩き割り、
3匹目は銀で模様が入った高級皿に卵を載せて電子レンジに突っ込んだものだから、
卵が破裂してレンジはべとべと、皿は銀がスパークして模様が黒く焦げ付き、
ヒビが入ってしまった。
4匹目は苺大福を目当てに冷蔵庫を開け、大福のみならずの中身を食い尽くし、
オレンジジュース1.8リットルを一気飲みして腹を壊し、
あろうことか俺の布団の上で下痢便を撒き散らして寝ていた。
5匹目はガスコンロを弄繰り回してキッチンペーパーを焦がし、危うく火事を起こすところだった。

仏の顔も三度まで、常人なら一度我慢するのも難しい。
それなのにこの仕打ちを受けて怒るなという方が無理だ。
俺も直ちにこの糞苺どもを叩き殺そうと思ったが、
ただ殺すよりはじっくりといたぶってからの方が仕返しになる考えなおし、
その場は丸く収めた。
こう一言で書くとあっけないが、
実際には自分の喉を掻き切らんばかりの怒りに堪えるのは本当に難しいことだった。
事件の翌日、俺は糞苺どもに人形用のドレスを着せてやった。
ピンクを基調とした、下劣でどす黒い糞苺どもの根性にはあまりにも似つかわしくないが、
せっかくの死に装束だから多少お洒落にしてやってもいいだろう。
どうせ、ドールショップで売れないままに古くなって、
廃棄されるところだった物を貰ってきただけだし。
さらに次の日は、糞苺を一匹だけ別の部屋におびき出した。俺はある物を後ろ手に隠し
「お前、確か白くて丸くて柔らかいものが好きなんだよな?やろうか?」と問いかけた。
糞苺は「ウニュースキナノー!ヨコセナノー!」と手を前に突き出し、目を血走らせ突進してくる。
その喉元をつま先で蹴り上げてやると「ウペッ!」と情けない声を上げて仰向けに転がった。
「欲しいなら欲しいなりの作法を見せろ、食い意地の塊め。
こいつが欲しけりゃ、両手を合わせて『ちょうだい』をしてみせろよ。」
「チョウダイナノ!チョウダイナノ!ヒナ、チョウダイ、シタノ!ハヤクヨコスノ!」
やれやれ、どこまで意地汚いんだろう。そんなに欲しけりゃくれてやろう。
あらかじめ輪にしておいたプラスチック製の結束バンドに糞苺の腕を通し、
端っこを引っ張って締め上げる。
「どうだ、白くて丸くて柔らかいだろう。
『ちょうだい』じゃなくて、手を合わせて『ごめんなさい』するなら切ってやってもいいぞ?
手首がぴったり合ってるから馬鹿なお前にもやりやすいだろう。」
「ヒナヲダマシタノ?オマエバカヤローナノ!ヒナワルクナイノ!ウニューヨコセナノ!ヒナカワイーノ!」

本当にあきれた奴だ。じゃあずっとそうやってろ。
捕まえた糞苺の口にタオルを押し込み、箱に放り込むと次の糞苺の捕獲にかかる。

残り4匹はまったく同じ手口で捕まった。なんだか頭の悪さに同情を禁じえない。

そして今、俺の目の前には「凶悪犯」5人、
もとい5匹がフェンスの支柱からロープで数珠繋ぎになっている。
俺は車から「道具」を幾つか取り出した。そのうちには苺大福も含まれる。
「見ろ、お前らの大好きなうにゅうだぞ?2つだけある。もっとも一つは、俺が今食べるがな。」
そう言いつつ、苺大福にかぶりつく。うん、けっこう美味い。
この光景は数日前から飯抜きで飢えている糞苺どもには、相当妬ましく見えているようで
「ウニュー!ウニュー!」「オナカヘッタノー!」の大合唱が起こる。
「じゃあ5等分して食うか?」
「ヤーノ!ヤーノ!ゼンブホシイノー!」
異口同音に独り占めを主張する。まあそう言うと思ったよ。
「そうか。でも一匹で1個食べられる、いい方法があるぞ?
他の4匹が『居なくなっちゃえば』いいんだ、そうじゃないか?」
糞苺どもは何かはっと気付いたような顔つきをして、互いに顔を見合わせている。
僅かに間をおいて、その口元がにやりと歪み、目が不気味な輝きを帯びてきた。
こいつら、本当にやる気だ。あまりに浅ましい根性に、我ながらぞっとする。
だがそうでなくては困る。
「それじゃあゲームの始まりだ。お前らにこれをやる。」
糞苺のドレスの襟首を掴んで引っ張り、隙間に松明を差し込む。松明といっても、
角材にタオルを捲きつけて針金で止めただけの品だが。
ちなみにこのタオルは糞苺を黙らせる時に使ったものだ。
わざわざ新しいのを買うなんて勿体無い。
つづいて、松明の角材を濡らさないように気をつけつつ、糞苺のドレスに灯油をかける。

最後の仕上げは、キャンプの時などに使う、ゲル状の着火剤だ。
マヨネーズのようなボトルの先端を、もじゃもじゃとした金色巻き糞のような頭に突っ込んで
適量を搾り出すと、ゲルは長い髪に絡んでまったく落ちてこない。
灯油まみれのドレスにも多少塗りつけて準備は全て完了だ。
「いいか、お前らの松明にも同じゲルが塗りこんである。そいつを使って邪魔者に火をつけろ。
邪魔者が減れば減るほど、お前の取り分が増えるんだからな。
ただし気をつけて扱わないと、とんでもないことになるぞ。
お前らは今、すごく燃えやすいってことを忘れ るな。」
そう言いつつ、チャッカマンを取り出し、松明に火をつける。
「特に、こんなに固まっていたらみんなまとめて燃えちゃうぞ。」
その言葉に糞苺たちがビクッと縮み上がったところでロープを切ると、
蜘蛛の子を散らすようにめいめい勝手な方向に逃げて行った。
だが、頭の上で松明が燃え、熱くて仕方ない上に、
いつ自分の頭に火が燃え移らないとも限らない。
まあ、そう簡単に燃え移られては困るので垂れやすい灯油ではなくゲルを使ったのだが、
糞苺どももこれは短期決戦に限ると気付いたものと見えて、命がけの鬼ごっこを始めた。

「ヒナガウニュータベルノー!」「ヤーノ!ヒナガタベルノー!」「オトナシクモエロナノー!」

・・・どうも、早く苺大福を独り占めにしたかっただけらしい。

しかしこのショーは傍目に見る分には実に面白い。
もともと短足で頭が異様に大きい糞苺。それに松明がつき、
いつも以上に不安定になっている上に腕が自由に動かせないのでバランスが取れない。

ただでさえ醜い顔を歪め、必死になってフラフラ走る。
へっほへっほ、へっほへっほと気持ち悪い声を上げて、
松明を壊れたメトロノームのように振りながら走る。
追われる糞苺が「ヴマーーー!」と狂ったような声を上げて逃げ惑い、走る。

実に下劣、実に悪趣味なショーである。だが、見ている俺は馬鹿笑いが止まらない。
そのうち、ひそかに期待していた出来事が起こった。あまりのバランスの悪さと、
草が生えて走りにくい地面のため、一匹の糞苺が校庭の真ん中辺りでずっこけたのである。
拍子に松明の炎が揺らめき、頭のゲルに着火。

「アンマアァァァァ!!アツイノ、アツイノ!ビャーーーー!」

金色巻き糞が火を噴き、糞苺が目を普段の倍くらいに見開いて泣き喚く。
残りの糞苺どももこの惨状に驚いて、足を止めて事の成り行きを見守っている。
燃えている糞苺は何とか起き上がろうとするが、
パニックを起こしている上に腕の自由が利かないので上手く立てず七転八倒。
そのたびに風にあおられて火勢は強まり、ついに服にも火が移った。

「ピャアア!ピャアアアアアア!!」

火達磨になった糞苺が蠢き、悶えている。
その顔は土と煤とヨダレと鼻水と涙と体液でべとべとに汚れ、言葉で言い尽くせない凄惨さだ。
他の糞苺どもも、自分たちがいかに危険なゲームをしているかにやっとのことで気付き、
完全に戦意喪失したようだ。
だが、4匹が足を止めていられたのも僅かな時間のことだった。
火達磨糞苺の結束バンドが、熱で溶け、切れたのである。
火達磨糞苺はバネで弾かれたように起き上がると、
何を考えたのか一番近くに居た別の糞苺に向かって走り出した。

「ピキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

それは既に言葉ではなかったし、叫びともいえなかった。
意識とは無関係に喉の奥から絞りだれる「音」としか言いようがなかった。
あえて意味を推察するなら「助けて!」だったのか「死なば諸共!」だったのか、
たぶんその辺だろう。
もっと転げまわっていれば、あるいは火も消えたかもしれないが、
むやみに走るから風が当たってぼうぼうと燃える。
燃えるから熱い。熱いから調速器が壊れたゼンマイ人形のごとく腕を振り回し、
一層スピードを上げて突っ走る。

追われる方も必死に逃げる。しかも愚かにも、さらに別の糞苺に向かって逃げるのである。
その糞苺はまた別の・・・お前らギャグでやっているのか?

運よくこの馬鹿げた連鎖反応に巻き込まれなかった糞苺が一匹いた。
顔面蒼白でこちらに走ってくる。

「何をやってる?他の奴をみんな焼き殺さないと、ゲームは終わらないぞ。
こっちに来たら突き倒してあいつみたいに火達磨にしてやる。」

と竹ざおを持ち出して突く真似をすると「ヤーノ、ヤーノ!」と逃げていったが、
やはりもう戦う気はなくなったようで、フェンスによじ登って逃げようとする。
しかし手首が動かないので、どうにも登りようがない。
それでは、と松明を外そうとするが、結束バンドがある限りあと一歩のところで外れない。
ついには、松明の炎がドレスの袖に引火した。

「ビャアアアアア!アヅイ!イダイ!アヅイ!アヅイ!イダイ!ウンビャーーーーッ!!」

馬鹿な奴だ。だが、怪我の功名というか天佑というか、
袖から焼けたおかげで一番少ない被害で結束バンドを焼き切ることに成功した。
痛む腕で松明を投げ捨て、袖の火を叩いて消し、フェンスをよじ登る。
ここまで行くとは想定の範囲外だった。
だが、運命というのはそうそう甘いものではないらしい。

「オマエズルイノー!ヒナモニゲルノヨー!!」

別の糞苺が、同じ位置からフェンスを登ろうと走ってきたのである。松明をつけたままで。
当然先にフェンスを登っていた方は尻を炙られ、ついにはドレスの裾と尻から出火。

「チャアアァァァッ!」

たまらずフェンスから転げ落ちて火達磨2号に成り果てる。
見れば火達磨1号はすでに力尽きて、イモムシかミミズのようにのたくっている。

「クルシイノ・・・ヒナワルクナイノ・・・タスケテ・・・ナノ・・・ チャンマァァァ・・・!」

いまだに謝罪の言葉を吐かない糞苺を見ていると、その腹を蹴り上げてやりたくなるが、
ここを離れた隙に別の糞苺が校舎に逃げ込めば、火事になりかねない。
じっと我慢して火達磨2号と別の3匹の様子を見守る。
2号は下のほうから火がついた分、全身が一気に火に包まれて威勢よく走り回っている。
残り3匹は恐怖心からか、小便を漏らし、下痢便を漏らし、びいびい泣いて鼻水を垂らしながら、
2号に狙われないように、きれいに3方に分かれて走って逃げる。
チームワーク、というよりは呉越同舟という奴か。
しかし同属を哀れむ気持ちなどは皆無のようで

「コッチクルナナノー!」「サッサトシネナノー!」「オマエノブンマデウニュータベテヤルノー!」

と罵声を浴びせつつ泣いている。

しばらくの間この均衡は保たれ、このまま2号が力尽きて仕切りなおしか・・・と思われたとき、
ちょっとしたハプニングが起こった。
3匹の中の1匹が、校庭の隅にあったジャングルジムの下を通り抜けようとして、
横棒に松明を引っ掛けて仰向けにこけたのだ。
運よく松明の火は消えたものの、角材が邪魔になって起き上がれないようだ。

「ダレカオコシテナノ!オコシテクレタラウニューヤルノ!ヒナイイコダカラタスケテナノ!」

もちろん糞苺が他人を助けるなどということをするはずはないし、
いくら知能の低い糞苺でも、持ってもいない苺大福に釣られるほどの馬鹿でもない。
それにしても苺大福を「やる」という、
既に自分がそれを得るに決まっているかのような口ぶりがずうずうしい奴だ。
そもそも俺が俺の金で買ってきた苺大福だっていうのに。

だが、この声を聞きつけたのが火達磨2号。
体中丸焼けで足腰は立たなくなり、髪は焼け落ち、目が片方つぶれたようだ。
しかし最後の執念を見せて、身をよじり、ひねり、くねらせてこけた糞苺に向かっていく。

「オマエハクルナナノ!ソコデシネナノ!アンマ、アンマー!」

静かに、しかし着実に迫ってくる2号に怯えた糞苺が騒ぎ立て、
じたばたと暴れるが、何の役にも立たない。

「う゛ー・・・う゛ー・・・・・・!!」

焼けて真っ赤に膨れた顔、その顔よりも赤く目を血走らせて、
ついに2号はジャングルジムにたどり着き、糞苺に覆いかぶさって力尽きた。

下になった方の糞苺は最後まで「ビャー!ビャーーーー!」と喚いていたが、
火が燃え移ると訳の分からないことを叫びだし、そのうち気絶して丸焼けになって事切れた。
これでゲームは一対一、いよいよ大詰めである。
しかし一方の糞苺が

「モウコンナコトヤメルノ・・・ハンブンコシテイッショニウニュータベルノ・・・!」と停戦を申し出た。

既に3匹の糞苺がグロテスクに死ぬところを見ている糞苺である。
自分が焦熱地獄で狂死するリスクと苺大福半分このリスクとを天秤にかければ、
いくら糞苺でも後者を取って不思議はない。
提案を持ち掛けられた方も大人しくそれに従い、先に立ってこちらに歩いてきた。
が、そのとき。後ろに回った糞苺が落ちていた釘を拾うと、先を行く方を蹴り倒し、
太ももに釘を突き立てると松明を奪って投げつけた。
謀られた方の糞苺は、一気に燃え上がり、熱と痛みに一際大きな声で泣き喚く。

「ウビャー!ウビャアァァアァーー!イイイイイダイノオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!」

一方謀った方は喜色満面、俺の元にやってきて

「ヒナカッタノ!ヒナユーショーナノ!ウニューハヤクヨコスノ!チャンマ、チャンマ!!」
「流石だよ。ここまでお前が薄汚い下衆な根性を持っているとは、俺も思わなかった。」
「ウニューハヤクヨコスノ!キコエナイノ?オマエノロマナノ!」
「だが、頭の中身は、俺の方がちょっとばかり勝ってるようなんだな。」
「アタマ?ドーデモイイノ!クレナイナラジブンデウニュートリニイクノ!!」
「まあ待てよ。お前の背中の松明、針金でタオルを押さえてあるんだが、
タオルがだいぶ燃えてるだろ?すると針金が緩くなって・・・」
「チャ?」
「襟に落ちてくる。」

その言葉と同時に、火のついたタオルは糞苺の背筋に断罪の一撃を叩き込んだ。

「それ、お前も走り回って来い!」
「ギャアァァーーーーッ!アヅイノ!アヅ、アヅ、ウンビャアアアアアアア!!」

ついに全ての糞苺が炎に包まれた。先ほど謀られた方は恨みに目を血走らせ、
一息に釘を引き抜くと歯をがちがちと鳴らしつつ怨敵に向かって走ってきた。
手には角材を携えている。
「優勝者」の儚き夢に踊らされた方は必死で逃げる。
二つの火達磨があちらこちら走り回って、実に馬鹿らしい。

「オマエウラギッタノ!ゼッタイ、ゼッタイユルサナイノ!」よったよった、へっほへっほ。
「ダマサレルホウガワルイノ!カッタノハヒナナノ!ヒナ、ヒナ、ヒナーー!」よったよった、へっほへっほ。

おそらく心の汚い亡者たちが落ちる地獄というのは、
こんな感じの不毛な争いが永久に続いている所なのだろう。
2匹の糞苺はしばらく走り続けていたが、同時に崩れ落ちるように倒れ、
腿に傷を受けた方はそのまま事切れた。
だが、最後まで残った方はまだしぶとくも生きている。

「ユルサナイ・・・ヒナ、オマエヲゼッタイニユルサナイノ・・・・・・!」

「許してもらおうとも思わない、というより、こっちが被害者なんだ。
むしろお前に謝って欲しいくらいだな。」

「ヒナワルクナイノ・・・オマエクソッタレナノ・・・ユルサナイノ・・・・・・」

「許さない、か。じゃあどうするって言うんだ?」

「オマエ・・・ノロイコロスノ・・・ヒナガシンデモオマエヲノロイツヅケルノ・・・」

「そいつは面白いな。お前みたいなチビで無力な生き物に呪われたって痛くも痒くもない。
もしお前が、本当に人を呪い殺すほどの力を持っているって言うなら、一つ試してみようか。」

そう言うと俺は竹ざおの先に糸で苺大福を吊るして持ってくる。
そして竹ざおを掲げ、糞苺の真上、180cmくらいの位置に大福がぶら下がるようにした。

「どうだ、お前の力を見せてみろ、この苺大福に食らいつけるか?
そんな焼け焦げて肉だか炭だか分からなくなった手足でさ。」

「ヴウ・・・ヴウウ・・・・・・・・・!!」

糞苺はしばらく燃えるような瞳でこちらを睨み付け、
次いで真上にぶら下がる苺大福に視線を合わせて全身をふるふると震わせた。

そして目をかっと見開くと


「ま゛ああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


馬がいなないたかと思うような野太い声を上げて、手足を突っ張り大きく飛び上がると、
竹ざおごと苺大福に食いつき、さおの先端を食いちぎって頭から地面に落ちた。
その瞳にもはや精気はなく、手袋越しに触れると、脈もなくなっていた。

俺は糞苺どもの死体を穴に埋め、片づけをして山を下りた。
あれ以来俺の家に糞苺が出ることはなくなった。
ちなみに糞苺の呪いは今のところない。
奴が死の瞬間考えていたのは「俺を呪い殺すこと」ではなく「苺大福に食いつくこと」だった。
そして、そのために全身全霊の力を使い切ってしまった。
おかげで「大福に食いつくこと」は達成され、奴はそのまま成仏したのだろう。

・・・いや、奴が「仏に成る」ことができるかは微妙だし、正直なところ成って欲しくないが。

あの学校は近く取り壊され、産廃置き場になるという。
存在自体が産廃の糞苺どもにとっては、お似合いの墓標になるだろう。


〜完〜